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2009/10/05 (Mon) カーヴの隅の本棚(鴻巣友季子)

翻訳家である鴻巣友季子が書いた「小説を読みつつ記憶のカーヴを探り、ワインの製法をたどり文学の本質に迫る」という本書は、翻訳にもワインにも興味がある(「翻訳」は興味というより仕事だが)私にとってはうってつけの本であると思われた。しかし、読んでみるとやけに小難しい。「文學界」での連載ということで構えてしまっているのだろうか。もうちょっと取っつきやすくてもいいのになと残念に思う。
というわけで、斜めに読んでいたのだが、「コリダ・デ・エスカラ ― 熟成の階段」という回で古典文学の新訳の話になったときに興味深い話にぶち当たった。かなり長いが引用する。

 しばらく前、日本のある酒類輸入元がジャスティノス社のマディラを「百年以上も前のもの」と宣伝して販売し、物議を醸したことがある。その中でsolera system(ソレラシステム)という熟成法が一般にも注目された。これは旧来のシェリー、マラガなどの酒精強化ワイン、ヘレス産のブランデーなどに使用されるものだ。最近ではあまり用いられなくなったとも聞くが、このシステムでは、樽をピラミッド形で数層に組み、「ソレラ」と呼ばれる最下段に一番古いワイン、二段目の「第一クリアデラ」にそれより一年若いワイン、三段目の「第二クリアデラ」にさらに一年若いワインを入れて寝かせる。ソレラから消費分のワインが引き出されると、第一クリアデラから同量が補充され、第一には第二クリアデラから補充され、第二には「ソブレタブラ」と呼ばれる出来たての若いワインが補充され、このピラミッド全体を「コリダ・デ・エスカラ(段追走)」と呼ぶ。年ごとの出来のばらつきを均すのが目的だが、各樽にはつねに古いワインと新しいワインが混ざりあうことになり、これが独特の風味をもたらす。ソブレタブラはより古いワインと時間をかけて交わることで、こなれた古酒の質を少しずつ獲得していく。より下層にあるワインは若いワインが入ったことで、味わいを更新する。単独のヴィンテージ、一箇の樽では、なし得ない熟成のしかたである。
 このコリダ・デ・エスカラの図はいつの頃からか、わたしに新訳というものの理想的なあり方をイメージさせるようになった。仮に「改訳」が過去を自分の方に引き寄せ、主体的に取捨選択してアサンブラージュを行うものであるなら、わたしの思い描く「新訳」は、もっと受け身な、喩えるなら、自分と翻訳の方が過去の積み重ねにむかっていく、そのなかを徐々におりていくソレラシステムに近い。これまで世界に累々と層をなしてきた文学のコリダ・デ・エスカラに参加するということ。百年前の古典の「新訳」は一年で一年ぶんの時間を重ねるのではない。その一年の下(もと)には百年の「読み」の熟成がある。
 新訳に携わるとき、わたしはソブレタブラの一滴になる自分を夢想する。


最後の一行の考え方が素晴らしいね。ここを読んだだけでもこの本を読んだ甲斐はあった。

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